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「集合のダイアログ」オンライン・フォーラム

全国的に増え続けている芸術祭やオリンピックに向けた関連事業など、行政主導の文化事業増加に伴い、各地で制作や発表の機会が増えています。トップダウン構造に依存し、与えられた諸条件に反応して自己の行動を選択するだけではなく、文化創造においては、人間関係の創設や小さな単位でのグループ・ダイナミクスの発生が必要不可欠なのではないでしょうか?特に地方都市においては、制作拠点とする集合スタジオなどが、アーティスト同士が繋がる共同体となり、社会との接点としても重要な拠点となっているところも多く存在します。震災、政治情勢、経済破綻、パンデミックなどの不測の事態に直面したとき、現代の文化創造において個と社会をつなぐ「集合」が果たしうる役割について、国内外のアーティストや実践者たちを迎えディスカッションを開催。


記録映像

第一部(1日目)

第二部(2日目)


開催概要

日時

※このイベントは終了しました。上記より記録映像をご覧ください。

第一部(1日目)
2021年1月8日(金)18:30〜21:00(日本時間)

第二部(2日目)
2021年1月9日(土)18:30〜21:00(日本時間)

主催

特定非営利活動法人S-AIR

助成

令和2年度 文化庁 アーティスト・イン・レジデンス活動支援事業
公益財団法人 北海道文化財団
公益財団法人 小笠原敏晶記念財団

企画協力

なえぼのアートスタジオ
北海道教育大学岩見沢校 アートプロジェクト研究室


第一部(1日目)

第一部では、世界の様々な都市におけるアートや政治の関係、自発的に始まる文化などを焦点に当てた映像作品を制作するモーガン・クエインタンス、香港でアーティスト・ラン・スペースを共同設立し、香港返還前から活動するアーティストたちにインタビューを行い香港社会の変化とアーティストたちの活動を記録する活動も行ってきたアーティストのリョン・チーウォー、そして、パンデミックで文化支援の不十分さが明るみになった日本において、アーティストたちが自らの労働条件や環境を改善すべく、ネットワークを形成する動きに関わっているアーティストの川久保ジョイさんをお招きし、お話を伺います。

モデレーター 

橘匡子(特定非営利活動法人S-AIR)

ゲスト・スピーカー 

モーガン・クエインタンス(S-AIRレジデント・アーティスト、ライター)
リョン・チーウォー(アーティスト)
川久保ジョイ(アーティスト/art for all)


出演者プロフィール

モーガン・クエインタンス

アーティスト、ライター
https://morganquaintance.com/

モーガン・クエインタンスによる発表

ロンドンを拠点にアーティストとライターとして活動する。現在S-AIRにてオンライン滞在制作中。

自分が暮らす街、自分自身や家族など、個人的な語りを通してその社会について言及する映像作品や、ケープタウン、ベルファスト、イスタンブール、東京、ダカールなど、世界の都市におけるアートやそれをめぐる社会的・政治的文脈を映像作品にしている。

また批評家としては、1970年代に創刊した現代アートを扱う月刊紙アート・マンスリー、ザ・ワイヤー、英紙ガーディアンにおいて、現代アートや美学、またそれにまつわる社会政治学的文脈についての記事を寄稿し、イギリスのアート界における議論や対話を形づくるような批評を発表している。

リョン・チーウォー(梁志和)

アーティスト、Para Site 共同設立者
http://www.leungchiwo.com/

リョン・チーウォー プレゼンテーション

イタリアの写真アーカイヴ研究センター(CRAF)で写真文化を学んだ後、1997年香港中文大学にて芸術課程修了。写真、テキスト、古いモノ、パフォーマンス、インスタレーションなどを用いて、コンセプトに基づいて歴史を紐解きながら、記憶、権力システム、歴史の両価性を問う作品を制作する。

1967年に香港で起きた反植民地暴動に焦点を当て、その年に起きた様々な社会的、文化的、政治的事件についての調査を続ける。古いモノ、アーカイブ素材や画像を総合的に収集し合成することで、日常のひとときとその背景にある不安定な政治情勢を並列して見せている。

リョンはPara Siteの共同創設者であり、現在は香港市立大学クリエイティブ・メディア学部准教授。2005年にはS-AIRのアーティスト・イン・レジデンスに参加している。

川久保ジョイ

アーティスト、art for all 運営メンバー
https://www.yoikawakubo.com/

川久保ジョイさん プレゼンテーション

スペイン生まれ。2003年筑波大学人間学部卒業。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程中退後、金融業界にてトレーダーとして活動。現在は東京とロンドンを中心に活動中。

物語性を巧みに用いた多メディア・インスタレーションで特異的な歴史を普遍的な問題へと媒介して行く作品群を製作する。また近年は原子力の問題、金融、歴史など人間の営みに焦点を合わせ、時間や価値観の軸の中のかけ離れた点を提示することでしばしば、観客を是と非の間へと誘う作品群を製作している。その視点には人間の認知論や意識の存在論、形而上学などの哲学的な問題意識が根底に認められる。

川久保は、現在日本におけるアーティストやアート関係者のための労働組合や圧力団体、また情報共有のプラットフォームとして機能し得るネットワーク形成に向け、アーティストが主導する運動アート・フォー・オール(art for all)に関わっている。


第二部(2日目)

アーティスト・スタジオやイニシアチブは、文化創造の拠点であると共に、その地域の個々のアーティストと社会をつなげる接点でもあります。近年文化事業の増加と共に支援も増えていますが、観光や地域経済への還元、福祉などの課題を解決する手段にすり替えられがちです。創造的〈個〉が自己組織化し、広い意味での文化と社会の成熟した関係を、いかに構築することが可能なのでしょうか。ギリシャの経済破綻をきっかけに、アテネ市内でアーティスト・ラン・スペースを運営するエイト、相模原地域だけではなく国内の多くのアーティスト・スタジオとのネットワークを構築しているSuper Open Studio NETWORK、当団体も入居する札幌市のなえぼのアートスタジオが集まり、様々な〈集合〉のあり方を考えます。

モデレーター

加藤慶(アートラボはしもと)

ゲスト・スピーカー

EIGHT – critical institute for arts and politics(ギリシャ・アテネ市)
ヴァシリス・ノウラス&コスタス・ツィムリス

Super Open Studio(神奈川県相模原市)
山根一晃、水上愛美、小山維子

なえぼのアートスタジオ(北海道札幌市)
山本雄基ほか


加藤 慶 

相模原市 アートラボはしもと 学芸員

1981年生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻コミュニケーションデザイン領域修了。
あいちトリエンナーレ2016アシスタントキュレーター、MAT, Nagoyaプログラムディレクターを経て2017 年より現職。これまでにワークショップや展覧会などを多数企画。
「SUPER OPEN STUDIO(S.O.S.)」を立ち上げた他、期間中には全国のアートスタジオやイニシアチブを招き交流を行う事業を山根一晃(REV)や他の美術館の学芸員と共同で企画、実施している。

EIGHT, critical institute for arts and politics

ヴァシリス・ノウラス
コスタス・ツィムリス
(エイト共同設立者、アーティスト・デュオVASKOS
https://8athens.wordpress.com/

EIGHT プレゼンテーション(短編版)

エイトは、常に変化し続け不安定な状況に、批判的に介入する可能性を模索しながら活動する場として、アテネ中心部に立ち上げた文化的スペース。社会文化的構造を大きく変えたギリシャの経済危機が始まった8年後の2019年3月に設立された。様々な芸術、政治、舞台プロジェクト、また、都市の研究や社会的行動を展開し、継続の方法を探りながら、新自由主義経済で求められる持続可能性に挑戦する。エイトは、アーティストのヴァシリス・ノウラスとコスタス・ツィムリス、キュレーターで研究者のギギ・アルギロプロスによって組織されたプロジェクトであり、公的資金も民間からの援助も受けずに自律した活動を行う。

ヴァシリス・ノウラスはアテネを拠点とした美術作家であり、また、ノヴァ・メランコリアというパフォーマンスグループの舞台監督として活動する。コスタス・ツィムリスは美術作家であり、これまでにギリシャやセルビアで個展を開催。また、ふたりはVASKOSというデュオとしても活動。パフォーマンス、ドローイング、映像やセラミックなどを使用し、国家、性、芸術的アイデンティティに関する見解をユーモアを交えて組み合わせる作品を制作する。エンブロス劇場、グリーン・パーク・アテネ、DIYパフォーマンス・ビエンナーレなど、アテネ市内で街中を占領し文化・アート的行動を起こす動きにも参加している。

Super Open Studio NETWORK

山根一晃小山維子水上愛美 
https://www.superopenstudio.net/

Super Open Studio NETWORK プレゼンテーション

2014に発足した「Super Open Studio NETWORK(以下S.O.S.NETWORK)」は、神奈川県相模原地域(東京都町田市・八王子市の一部を含む)にて2013年から開催している「SUPER OPEN STUDIO(S.O.S.)」に参加する20軒を超えるスタジオと、その所属アーティスト約100名から構成されている。

この組織は、明確なマニフェストの元に集った近代的なグループではなく、相模原という地域に、様々なアーティストが異なる目的のもとに集い、各々がめざすものの為にそれぞれが自らの意思と責任のもと動いていく非統一的なものである。けれどこの組織は、様々な主義や主張が多義性と差異性を失わず混在し、ネットワークによって結ばれているに過ぎないがゆえに、他地域で活動する様々な主義や主張をもった集団をふくむ超集団的な状態を思考することも可能なものである。一方、S.O.S.は美術館やギャラリーといった既存の制度的から飛び出し、美術のあり方を場所の特性と同時に考察しようとするサイトスペシフィックなアートと地域創生を抱き合わせたものではなく、S.O.S. NETWORKにおけるNETWORKのインフラを整備し、構築するための機能をもったものである。

8年目となる2020年は運営メンバーを一新し、18年からS.O.S.の主催を担っていた実行委員会を解体し、3年ぶりにS.O.S.NETWORK主催のもと行われることになった。コロナの状況下で例年通りの開催が難しい中、参加するスタジオとアーティストがそれぞれのタイミングや方針で「スタジオを公開する」ことについて、改めて問う年となった。形骸化しつつあった試みについて今一度原点に戻り考える機会とし、例年1ヶ月間で行われていた会期を2021年3月まで延長させることで、一斉開催を避け各タジオごとの公開スケジュールやコンテンツをオンライン上のカレンダーに徐々に表示していく実験的なものとなっている。会期中は別途運営チームを設け「1 day OPEN STUDIO」という1日限りのオンラインイベントを実施。これまでも行って来た公開制作、パフォーマンス、ワークショップなどに加え、オンラインの特徴を活かしたプログラムを展開し、他地域のスタジオや多くのアーティストの活動拠点となっている京都でスタジオ公開を行う団体との交流プログラムを配信するなど、距離的制約を超えて地域の内外へ広がるネットワークのさらなる構築を試みた。

山根一晃はS.O.S. NETWORKの設立に携わり、16年から18年は代表を務めた。今年度より、小山維子と水上愛美を中心として運営メンバーが一新された。

なえぼのアートスタジオ

山本雄基 ほか
(アーティスト、共同設立者、運営メンバー)
https://www.naebono.com/

なえぼのアートスタジオ プレゼンテーション&スタジオツアー

札幌を活動拠点とするアーティストが中心となって運営、管理を行うスタジオ。元缶詰工場で2フロア約270坪の古い倉庫を自分たちで改装し、2017年7月にオープン。10組以上のアーティスト制作スタジオ群をはじめ、国内でも長く続いているアーティスト・イン・レジデンスの事務局、いくつかの企画ギャラリーなどが入居する。

約30坪のフリースペースを併設し、企画展示、ゲストスタジオ、ライブパフォーマンスなど、多彩な活動のサポートも行っている。展示やイベントの内容については、現代美術の展望を前提とし、運営メンバーが判断して決定する。

全体の共通コンセプトは設定せず、自発的で主体的に入居アーティストそれぞれが独立した個の仕事を行うことを尊重している。同時にゆるやかな共同体として互いの仕事に良い影響を与え、開かれた可能性を持った場になるような活動を行う。


令和2年度 「集合のダイアログ」S-AIR Exchange Programme
[主催] 特定非営利活動法人S-AIR
[助成] 令和2年度 文化庁 アーティスト・イン・レジデンス活動支援事業
公益財団法人 北海道文化財団  公益財団法人 小笠原敏晶記念財団
[企画協力] なえぼのアートスタジオ  
北海道教育大学岩見沢校 アートプロジェクト研究室