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アートと考古学、オークニーから北海道へ

アントニア・トーマス

考古学者、キュレーター
ハイランズ&アイランズ大学〈現代美術と考古学〉修士課程コース 
プログラムリーダー(イギリス・スコットランド)

はじめに

私はS-AIRの招へいにより「Cross Section: Art and Archaeology」プログラムに参加し、2024年9月に北海道で滞在調査を行った。現在私はイギリスのオークニー諸島でハイランズ&アイランズ大学〈現代美術と考古学〉修士課程コースを主導しながら、新石器時代の美術と建築、そして現代美術と考古学の関係性という主に二つの分野に焦点を当てた研究を行っている。私は長年日本を訪れたいと思っていたので、北海道の美術と考古学について学ぶことができるこの機会に迷わず飛びついた。

オークニーにおける美術と考古学

オークニーは約70の島々からなる諸島で、そのうち13の島に人が住んでいる。スコットランド本土の北岸沖に位置しているため、私はすぐに北海道とのつながりを感じた。オークニーは先史時代の考古学で世界的に有名であり、同時に活気ある現代美術のシーンもある。オークニーと日本の交流を促進するオークニー日本協会という団体もあり、さまざまなイベントや文化活動を開催している。オークニーの人口は約2.2万人と少ないが、毎年約50万人もの観光客が訪れる。その多くが「新石器時代のオークニーの中心地」として知られる世界遺産が目的だ。この遺産は、約5,000年前の4つの主要な遺跡である、リング・オブ・ブロッガーとストーンズ・オブ・ステネスという2つのストーンサークル、メイズハウの墳墓、そしてスカラ・ブレイの石造りの住居群で構成される。

新石器時代や縄文時代に、日本とスコットランドの間で直接的な交流があった証拠は現在のところ見つかっていないが、両地域の先史時代の遺跡や遺物には、驚くほどの共通点が見られる。日本のストーンサークルと同様に、リング・オブ・ブロッガーやストーンズ・オブ・ステネスは何世代にも渡り築かれ、季節の移り変わりと深く関わっていた。また、オークニーの多くの遺跡は天文学的な配置が考慮されており、景観の中で際立った地形と関連づけられている。

世界遺産の考古学

今回の滞在調査では、「北海道・北東北の縄文遺跡群」を構成する17の遺跡のうちいくつかを訪れることができた。2021年にユネスコ世界遺産に登録されたこれらの遺跡は、農耕以前でありながら定住していた縄文文化の発展と、その複雑な精神的信仰体系が1万年以上の長い期間にわたり続いたことを示す、特異な遺産である。

私が初めて縄文時代のストーンサークルについて知ったのは数年前で、ストーンヘンジのビジターセンターで開催されていた「Circles of Stone: Stonehenge and Prehistoric Japan(環状列石:ストーンヘンジと先史時代の日本)」の展覧会の宣伝を見たのがきっかけだ。ストーンヘンジは、エーヴベリーや関連遺跡とともに、1986年にイギリスで最初に世界遺産に登録された7つの遺跡のひとつ。オークニーの新石器時代の遺跡が世界遺産として認められたのは1999年になってからだ。

北海道では、大船遺跡(墓穴や竪穴住居がある)と垣ノ島遺跡を巡った。どこへ行っても博物館の展示の質の高さに感銘を受け、すっかり土偶に魅了されてしまった。特に、2007年に北海道で初めて国宝に指定された「中空土偶」を目にしたことは、旅のハイライトのひとつだった。また、亡くなった子供の足形付粘土板も、とても力強く心を打たれるものだった。オークニーで見られるものと非常によく似た遺物もあった。例えば、磨かれた石斧や石皿、すり石などは驚くほど共通点があるが、土偶や漆器、翡翠の勾玉などは、オークニーではまったく見られない独特なものだった。また、フゴッペ洞窟の岩刻画も印象的だった。私が普段研究している線的で抽象的な岩絵とはまったく異なる表現で、とても興味をそそった。

世界屈指のアート

博物館の展示で多種多様な素材や遺物を目にすることができたのは素晴らしい経験だったが、私の北海道での旅を特別なものにしたのは、多くの素晴らしい現代アーティストと出会えたこと。印象的だったのは、川上りえ氏のスタジオを訪問し、さらに数日後にオープンした彼女の展示を見ることができた。白老では国松希根太さんのスタジオを訪れる機会にも恵まれ、彼の見事な木彫作品を見ることができた。私が北海道で見た現代美術の作品はどれもが、木、鉄、陶器、石など、素材に対する深い理解と、風景や自然環境とのつながりを感じさせるものが多かったように思う。このような自然との関わりやその美しさへの敬意は、訪れたアイヌの遺跡にも見られたし、北海道の豊かな先住民族の文化伝統について知ることができたことは貴重な体験だった。今後、アイヌの美術と文化についてもさらに学ぶことができたらと思う。

青森

2週間の滞在のほとんどは北海道で過ごしたが、二日間だけ青森で過ごし、日本で最も重要な縄文遺跡の一つである三内丸山遺跡に行った。青函トンネルを初めて日本の新幹線で通り、ワクワクした。全長としては、青函トンネルが世界最長の海底トンネルであるということを今回の旅で初めて知った(ちなみに、イギリスとフランスを結ぶ英仏海峡トンネルの方が海底区間は長いものの、全長では青函トンネルの方が長いそうだ)。2006年に開館した青森県立美術館では、その広大さと展示されている作品数の多さに圧倒された。特に、棟方志功の版画展が印象的で、さらに民藝運動に関連する工芸品の展示、例えば刺し子やぼろなどの青森の伝統工芸品も素晴らしかった。今では世界的に注目されているこのような手芸は、もともと貧しさの中で生まれたとのこと。

今回訪れた考古遺跡の中では、三内丸山遺跡はおそらく一番印象的で、国際的にも広く知られている遺跡だろう。特に、復元された大型掘立柱建物跡は、これまでに見たことのないスケール感で、その用途はなんだったのか多くの疑問を抱かせる。青森県立美術館が意図的に三内丸山遺跡の隣に建設されたという事実はとても興味深い。調べてみると、美術館を設計した青木淳氏は、早期〜中期縄文時代の遺跡に着想を得てデザインしたとのことだった。建物の一部が地下に沈み込むような構造は、発掘された遺跡の地下構造を反映させたものだそう。現代の表現において、先史時代の考古学をこのように参照している点は素晴らしい。古代そして現代においても、視覚文化や物質文化が同じように共通のアイデンティティを表現する重要な一部であり、人間であることの本質の一端をなしているということを示唆しているかのような対比だ。

室蘭

今回の旅で、私は室蘭に二度行く機会があった。最初は、青森から北海道へ戻る途中に、その日最終日だった絵鞆小学校で開催されていた室蘭アートプロジェクト(MAP)を観るため。面白いインスタレーションが多くありましたが、特に印象に残ったのは、20世紀後半の室蘭を捉えた酒井広司氏の白黒写真の展示で、工業都市・室蘭の本質を見事に捉えていると感じた。また、校内にある小さな博物館も面白く、学校の建設時に発見された縄文時代の貝塚や埋葬遺跡について知ることができた。数日後、再び室蘭と絵鞆小学校を訪れ、オークニーの先史時代の考古学についての公開講演を行った。柴田尚氏が企画した学校の体育館内にストーンサークルを築く「ストーンサークル2024」のワークショップにも参加し、私はオークニーから持参してきた湖の堆積物として形成され水に磨かれた約4億年前のデボン紀の砂岩の小石を持参し、ストーンサークルに加えた。この小石が今も北海道のどこかにあり、オークニーの一部が日本に残っていると考えるととてもロマンを感じる。

室蘭への旅は、楽しい経験となった。室蘭という街は、私が育ったイギリス北部の工業地帯を思い起こさせ、そして絵鞆小学校は、今回の滞在調査中で一番面白い建築物の一つだったと思う。私はミッドセンチュリー建築の大ファンなので、坂本鹿名夫氏の有名な円形建築について知ることができたし、彼がバックミンスター・フラーの思想に影響を受けていたことも、とても興味をそそられた。ストーンサークルのワークショップのために、この素晴らしい円形の空間で石を配置していると、先史時代のストーンサークル(日本でも、イギリスでも)から20世紀の建築、そして現代のデザインに至るまで、「円」という元型の永続的な力について考えさせられる。

現代考古学?

日本の考古学で特に印象に残ったのは、日本の考古学者や多くの一般の人々にとって、考古学とは常に古代の過去を対象とし、通常は発掘を伴うものだという点だ。これに対し、イギリス(および他のいくつかの西洋諸国)では、ここ20年間で考古学の定義が広がり、より近現代の遺跡や遺物、遺構も対象に含まれるようになっている。「現代考古学」と呼ばれることも多くなってきたが、それは矛盾した学問に聞こえるかもしれない。しかし、人類学者のジェームズ・ディーツが「忘れられた小さなもの」と呼ぶ、個人的な出来事などの痕跡を記録し、記憶と記録の間のギャップを埋める考古学的な手法や理論は、少し前の過去を探究する強力な方法となり得る。さらに、考古学は必ずしも発掘を伴う必要はない。例えば、現存する建築物を考古学的視点で記録・分析することによって、その空間がどのように使われ、居住されてきたのかを明らかにし、物質的に残存するものと生きた記憶を結びつけることができる。

例えば、坂本鹿名夫氏による円形建築が失われる前に記録することは、考古学者とアーティストが協力できる重要な現代アート・考古学プロジェクトとなるかもしれません。日本のアーティストたちが、こうした近現代の遺跡を記録している姿を見るのは非常に刺激的で、これは現代考古学の一形態であると言える。もし再び日本を訪れることができたなら、消えてしまう前に、もっと多くの円形建築を是非見てみたい。

今回の滞在調査では、本当に数え切れないほどの素晴らしい経験ができた。ここではその一部しか紹介できなかったが、いつか再び日本を訪れ、北日本の素晴らしい芸術と考古学について、さらに深く学びたいと思う。

最後に

北海道での滞在調査の機会をいただいたことに心から感謝の意を述べたい。世界屈指の博物館を訪れ、これまでに見た中でも最も印象に残る文化財や遺物などのコレクションを目にし、そして本当に刺激的なアーティストの方々と出会うことができた。なえぼのアートスタジオを会場に開催された「クロスセクション: アートと考古学」トークセッションでは、アーティストであり研究者の安芸早穂子氏、考古学者の吉田泰幸氏、アーティストの伊藤隆介氏と共に登壇し、日本におけるアートと考古学の協働や実践についてお話を聞けたことは大変貴重だった。伊藤氏とは、オークニーでお会いして以来の嬉しい再会だった。

今後数年のうちに再び日本を訪れ、「北の縄文遺跡群」を構成する残りの遺跡を巡り、それらがどのように現代アートに影響を与えているのかをさらに学びたいと思う。この滞在調査が、長期的な共同研究の第一歩となり、日本で出会った素晴らしい皆さんとの対話を今後も続けていけることを願う。今回の滞在を可能にしてくれたS -AIRと、グレートブリテン・ササカワ財団には深く感謝の意を述べたい。

滞在中には、皆さんに本当に温かく迎えていただいた。特に、滞在中に私を迎え入れ、通訳もしてくれた橘氏とウェブ氏、同じく迎え入れてくださった柴田尚氏、そして素晴らしい案内やお話を聞かせてくださった進藤冬華氏、川上りえ氏、栗栖マキ氏をはじめ、日本でお会いしたすべての方々に心より感謝したい。また皆さんと、北海道またはオークニーでお会いできますように!


「クロスセクション: アートと考古学」
主催 NPO法人S-AIR(エスエア)
協力 なえぼのアートスタジオ、さっぽろ天神山アートスタジオ
助成 グレイトブリテン・ササカワ財団